現在では、コンピュータによるデジタル技術によって地図作成のほとんどすべてが行なわれるようになってきています。
株式会社武揚堂では、本年創業110周年を迎えましたが、工務部検査課の最古参アナログ技術者である何木(なにき)茂(71才)に、同社が誇った往年の地図作りアナログ技術と古き良き時代を思い出して順次書いてもらおうと、本コーナーを企画しました。



その1 亜鉛版面上の記述内容の修正



はじめは旧地理調査所に入所しました・・・

現在では、地図作りもコンピュータ技術の進歩によりアナログ時代から、コンピュータ時代へと大きく変って来てしまった。
もう大分前の話だが、私が地理調査所(現在の国土地理院の前身)に入所し配属されたのが印刷部削描(さくびょう)課であった。
当時の地図印刷版は亜鉛版が使用されていた。後に軽くて丈夫なアルミ版に変ったが、当時の削描課の主な作業は亜鉛版面上の記述内容の修正と印刷用製版の作成であった。

地図製図の場合は、アルミケント紙やマイラーベースにペン、その他の器具を使用して作業をする。
亜鉛版、アルミ版は、印刷時に水を均等に付着させるため、細かい目立てがほどこされて、画線部には油性インキが付き、非画線部は水湿されインキが付かないという、水と油の離反作用を利用した平板印刷の刷版として使われる。

目立てされた亜鉛版、アルミ版に描画するとは、分りやすく言えば紙ヤスリの上に、道路、鉄道、河川、その他の記号、注記等を描写するようなものである。
紙への製図とは違って、ペンでは細かい作業が出来ないので、個人個人が自分に合うよう、書き易いように工夫した赤筆という毛筆を作って書く。
地理調査所に入所して半年間は、毎日、地図用の注記をひたすら書く練習、それも明朝体、等線体、アラビア数字が書けるようになるまで、練習の日々だった。

地図製図作業に使用される器具の一例 (写真1)
地図製図作業に使用される器具の一例

新しい亜鉛版は油にはきわめて敏感なので、版面上に手を触れたりは決して出来ないので、定規の代わりにガラス棒の両端にテープを巻いて使用し、作業する時に腕をささえるため腕板(わんぱん)と言う板を使って直接版に触れない様に気を配った。

墨は水に溶ける特殊な油墨を使用する。作業が完了するとアラビアゴム液を全面に敷いて被膜を作り、版面を保護する保存版とする。
後日この版に修正が出た時は、修正原稿に基づき修正箇所を摩石(ませき)、削り針で削除し、表面を海綿で良く洗い、修正箇所に腐蝕液を塗り、良くふき取ってから乾かす。
(写真2〜5)

細かい修正箇所は、削り針にて削除する。 (写真2)
細かい修正箇所は、削り針にて削除する。


摩石にて、版の表面を平らにする。 (写真3)
摩石にて、版の表面を平らにする。


海綿で版の表面のアラビヤゴムの被膜を良く洗い落とす。 (写真4)
海綿で版の表面のアラビヤゴムの被膜を良く洗い落とす。


修正箇所を腐蝕した後に、版面を良く水洗いし、乾燥する。 (写真5)
修正箇所を腐蝕した後に、版面を良く水洗いし、乾燥する。

この腐蝕した所は、元の様に油に敏感になる。そこに透明なフィルムに修正部分を彫刻し、紅殻(紅い粉)を付けて版に移写し、その上に油墨で修正を行ってゆく。終ったら、またアラビアゴムを引く。(写真6〜7)

修正箇所を腐蝕した後に、版面を良く水洗いし、乾燥する。 (写真6)
フィルムに修正部分を彫刻し、紅殻を付け、版上に移写する。


修正箇所を腐蝕した後に、版面を良く水洗いし、乾燥する。 (写真7)
油墨と赤軸の細い筆毛で修正を行う。

その他に製版工程で多色地図の場合、版面分版法、ゴム板法、版面直画法などが有る。その他、基本的に私が体験した削描課は総て毛筆での地図作業であった。
これらの方法については次回以降に説明したい。(2007年9月5日・記)